「総合事業受託方式」「賃貸事業受託方式」「単純な転貸」とは

<ビル経営管理士講演から>

地借家法32条の趣旨とは、賃料増減額請求は、契約をしてから「ある程度の期間」がたったときに、例えば、地価が下落したとか、上がったとか、公租公課が上がった、下がった、要するに時間的な経過の中で、当面の想定を超えて大幅に上がったり下がったりするという事情の変更があった場合に、その変更に則して増減請求をするというのが借地借家法32条の趣旨です。

 不動産運用のプロであるディベロッパーがオーナーに対して企画・建築・テナントの募集から建物の管理等、関与の度合いはそれぞれ異なるわけですけれども、収益性が非常に高いということを強調して、それから、賃料の自動増額特約が置かれて、併せて一定の賃料保証を必ず標榜する。

 「これだけの収入は必ず入ります」。こう言って、20年とか長期間にわたって安定した収益が得られるとオーナーに期待させて、サブリース事業に参加をさせたのですが、ディベロッパーの側で自分の転貸賃料が非常に低くなる。自らの事業採算が悪化した場合、借地借家法の32条、これが賃料増減額請求権の規定なのですが、これを使いまして賃料の減額請求を求める。自らが請求した減額額しか振り込まなくなるという事例が多発致して、平成7年からずっと注目する判例が出されてきました。

 特に話題になったのは、サブリースには借地借家法が適用されないという判決と、サブリースであっても借地借家法は適用されるという判決が相次いで出たものですから、サブリースというのはそもそも賃貸借なのかどうかということが議論されて話題になったものです。

 今日はこれを少し題材にしながら、ただサブリースだけではなくて賃料の増減額請求の一般論も含めてここで検討しておこうというものです。

 まず論点なのですが、一つはサブリースの法的な性質が議論されていました。サブリースといっても大体3種類ぐらいがあると言われています。一つは「総合事業受託方式」といわれるもので、土地の確保、建物の建築、建物の賃貸の管理まで一貫してディベロッパーが受託する。オーナーは土地さえ出してくれれば結構です。土地を買う資金を出してくれればいい。用地の確保から建築から管理まで全部一括してディベロッパーがやります。

 2番目が、「賃貸事業受託方式」と言われるもので、用地の確保とか建物の建築はオーナーが行う。これに対してディベロッパーが一括して借り上げて、ビル賃貸事業に関するノウハウを全部ディベロッパーが提供して行われるサブリース方式。

 3番目は単純な転貸であって、ディベロッパーがただオーナーからビルを借りる。借りて包括的に転貸の承諾を得て行う転貸であるサブリースと言われるもの。
 これについて、借地借家法関係の著書を出していらっしゃる澤野先生は、借地借家法32条、賃料増減額請求権がサブリースに適用があるかないかについて、この三つに対応してこういう言い方をしておられます。

 総合事業受託方式というのは一種の組合契約である。事業の細部は、委任だとか請負だとか賃貸借類似の混合契約である。2番目の賃貸事業受託方式は、委任と請負と賃貸借類似の契約の混合契約である。転貸方式は、純然たる賃貸借、あるいは賃貸借類似の契約である。

 ということで、澤野先生は、1番の総合事業受託方式と2番の賃貸事業受託方式は、借地借家法の適用はない。3番の形態で行われるサブリースだけが借地借家法が適用されるという学説を展開しています。

 こういうなかで、実際に賃貸事業受託方式のものと総合事業受託方式のサブリースで、実はディベロッパーが減額請求をして片方は減額請求が認められ、片方は否定されたというところから、サブリースについてそもそも減額請求の適用があるのだろうか、これが議論になったわけです。

 まず基本的な考え方ですが、要するに、争われていて、いろいろな理屈は述べているのですが、常識的に言うとこの論点はいったい何だったか。サブリースでは、不動産運用のプロであるディベロッパーが、オーナーに対して「これは収益性が高いです」ということを強調して、「少なくともこれだけの賃料は保証します。したがって、オーナーは安定的な収益を上げられます」と言って事業の勧誘をしたのです。

 それにもかかわらず、一転、自分のほうの賃料が下がって自らの採算が悪化したら手のひらを返したように賃料の減額を請求する。これは、契約的正義に反するのではないか、これが問題意識でした。

 これからいくと、ほとんど総合事業受託方式とか賃貸事業受託方式というのは、ディベロッパーが、「賃料は最低いくらである」、「これは最低保証致します」というふうに大体述べています。最低保証しておいたはずの賃料を減額請求したのであれば、最低保証したことにならないのではないか、「最低保証する」と言ってだましたのと同じではないかということで議論になったわけなのですが、この二つの方向があると言われていました。

 一つは「契約的な正義に反する要素」と言われるものです。もし、ディベロッパーが「最低賃料を保証します」と言ってサブリース事業にオーナーを勧誘しなかったら、オーナーは、例えば、さら地を売却処分する予定であったり、あるいは借り入れを起してまで建物を建築することはなかっただろう。こういう事情が明らかな場合、特に総合事業受託方式の場合には、結局ディベロッパーがそういうふうに言ったから売却もせず、借り入れまでして建物を建築をしたのに、あとで2階に上がってはしごをはずされたのでは、これは契約的正義に反するのではないかということが一方では言われていたわけです。もう一方で、「しかし、そんなものは知ったことか」というふうに法律上は言う余地があります。もう一つの「契約的正義に反しない要素」です。

 もともと、不動産というのは保有するだけだと出費がかさむわけです。活用するとすれば、仮にディベロッパーと組まなくてオーナーが独力で事業をしたところでバブルが崩壊した以上は同様の結果になる。要するに、一括賃貸であれ個別賃貸であれどうせ賃料は下がるのだから、事態は大きく変わらなかったのではないかとも言えるので、これは賃貸人も賃借人も運命を共にするのだ。ディベロッパーにだけ責任を押し付けられない。こういう相反する要素がありまして、これをいかに裁くかがサブリースと賃料減額請求の問題だったわけです。

 では、法律的にはどうなのかということなのですが、ここで一般論としての賃料減額請求も併せて説明しておきたいと思います。

 まず、「賃料の決定と契約自由の原則がある」。これを前提として頭に入れておいていただきたいと思います。まず、賃料額というのは契約自由の原則ですから、本来的には当事者はこれをどう決めても自由であると言われています。したがって、合意される当初の賃料は通常は相場に従うのでしょうけれども、相場より極めて高額であっても極めて低額であっても、詐欺だとか犯罪行為がない限りは基本的には構わないとされています。当初賃料の決め方については、原則として法律上の制約はありません。暴利行為であるとか公序良俗違反になるのを別にすると制約はありません。

 将来の賃料を当初契約締結時に賃料自動改定特約であらかじめ合意をすることも可能です。ただし、借地借家法32条との関係で調整の必要があるとされています。問題は、借地借家法32条「賃料増減額請求権」は、強行法規なのかどうかが問題になるということです。

 まず、原則の1、2、3なのですが、これはよく誤解されていることがあります。例えば、相場の賃料が大体これぐらいで推移している、これが相場である。ところが、相場賃料よりも実際にはずっと低くしてやってきたという契約があります。最初から相場賃料がこれぐらいなのですが、もともと相場よりも低く設定していて低い賃料がある。そうすると、市場賃料はこれである。ところが、うちのビルの現在の賃料はこれである。乖離がある。こういう場合に増額請求ができるかということです。

 最近よく起きている賃料の増額請求の中に、賃料が相場よりももともと低く設定されていた、だから今も相場よりもかなり懸け離れて低い、こういうケースがあります。こういうときにオーナーが増額請求をしたい。鑑定すると適性賃料額はこれぐらいだから、この乖離を埋めたいということで賃料の増減請求をされることがあります。これが通るかということなのですが、法律的な純原則的に言うとこれは賃料の増減額請求権は発生致しません。要するに、契約したときに相場賃料で契約しなくてはならないという原則はありませんから、相場よりも低く設定していたのならば、それは低くて当たり前であります。

 相場よりも高めの賃料設定というのがあります。高めに設定しておいて「相場よりうちは高い賃料だから減額してくれ」、こういう要望が通るかというと、これは原則として通りません。これは高めに約束しただけのことです。要するに、賃料増減額請求というのは何かというと、相場で決めても、高く決めても、低く決めてもいいのですが、契約をしてからある程度の期間がたったときに、例えば、地価が下落したとか、上がったとか、公租公課が上がった、下がった、要するに時間的な経過の中で、当面の想定を超えて大幅に上がったり下がったりするという事情の変更があった場合に、その変更に則して増減請求をするというのが借地借家法32条の趣旨です。

 したがって、最初から高めに設定していたから何年かたったときに相場より高いのは当たり前であります。そのときに、「うちは高いのだから、今まで高い賃料を払ってきたのだから減額してくれ」。これは通らないし、逆も同じです。まず、これが法律上の原則です。

 ところが、最近の増減額請求にはこういうものが多々見られます。これは理論的には本来通らないものです。ただ、現実的に言うと、こういうものでも賃料の増減額請求をするときは、まず簡易裁判所に調停の申し立てをします。簡易裁判所で話がつかないと地方裁判所に賃料増減額訴訟となります。

 この訴訟の中で、大体鑑定人を選任しまして、鑑定人が適正賃料を査定するかたちになります。そうすると、いわゆる適正賃料を査定するとこの辺が出てくるものですから、この差で増減請求を認めるかが裁判所の判断ということになります。実はここを争うわけです。減額する事情が、適正賃料との乖離があってももともと高く設定していたのだから、本来はこの間には減額する事情があるかないかを争うのが減額請求ですから、客観的な相場賃料と懸け離れているというのは、実は増減額請求の理由にはならないことをまず覚えておいてください。

 今回のサブリースで問題になったのももともとそうです。これはS不動産が起されたものですが、相場よりはもともと高めに設定しております。これはS不動産がオーナーにプレゼンテーションをした。プレゼンテーションをしたときにM不動産からもプレゼンテーションがあってM不動産のプレゼンテーションに勝つためにS不動産が高めの賃料を設定して、「うちはこれだけ払います。これを最低賃料として保証します」と言っているわけです。

 これが相場よりも高いからということで減額請求を主張したのですが、裁判所はこれを認めなかったです。「最初から自分で高めに設定したのだからこの差額の減額請求は駄目だ」と言っているわけです。要するに、ここで固定したものが、将来、予想を超えて地価がぐーんと下がってしまった、上がってしまった、公租公課が上がった、下がったとか、事情の変更があって増減請求ができるかできないか、これがまさに減額請求の問題です。時々、鑑定した市場賃料と食い違ってさえいれば減額請求ができるというふうに誤解をしていらっしゃる方がいるので、この点は注意をしておいてください。減額請求というのはもともと事情の変更によるものです。

 次に問題になるのは、そうではなくてこういう賃料なのです。賃料をその都度合意するのであればいいのですが、「賃料の自動改定条項」というものがあります。例えば、3年ごとに10パーセントずつ上げる。これは大体平成3年とか4年ぐらいの契約には一般的に見られたものだろうと思います。サブリースの契約なんかは特にそうですが、平成2年、3年ごろの物件というと、大体賃料を決めて3年ごとに何パーセントずつ増額しますという規定はあっても、減額するなどという規約は持っていないものが圧倒的でした。

 こういう賃料の自動改定条項は有効なのだろうかというのが、まず問題になるわけです。法律上の原則からいくと賃料は高く決めようが低く決めようがこんなものは契約ですから全然構わないわけです。そうすると、合意で「3年後は10パーセント上げたい」。合意するのであればそれをしても構わないではないかというのが本来になるはずなのですが、法律上、唯一引っ掛かってくるのが借地借家法32条です。

 借地借家法32条というのは、土地の価格の上下とか、公租公課とか、物価の変動とか経済情勢の変動によって、今決めている賃料が不当になった場合には当事者は増減額を請求できるというふうに書いてあります。これが強行法規というものであれば問題になるわけです。

 「当事者がどんな約束をしようと法律のほうを強行します」という規定ですから、当事者が約束をしても法律に違反しているものは無効になるわけであります。もし、賃料の増減請求権が強行法規であったら、当事者がどう決めても、例えば物価の変動だとか地価の変動から減額すべきだとなれば、これはいくら自動改定があってもこの規定に照らせば無効であるというかたちになってくるわけです。

 借地借家法32条は強行法規かどうかが問題になります。借地借家法では強行法規については借地借家法37条で一定の条文を挙げまして、「これよりも借家人に不利なものは無効とする」というふうに明示しております。つまり、強行法規がどれかというのは法律の条文に明示されているわけであります。

 借地借家法の37条に32条が入っていれば問題ないのですが、ご承知の通り32条は強行法規の例示の中に入っておりません。普通は強行法規で入るのは法定更新とか正当事由とかそういうものであって、実は増減額請求権は強行法規というふうには借地借家法は指示をしておりません。

 では、何で書いていないのに強行法規かどうか問題になるのかといいますと、借地借家法32条は「賃料増減額請求権は契約の条件にかかわらず行使できる」と書いてあるものですから、当事者がどんな約束をしていても増減額請求権は行使できるという条文の体裁になっていますので、強行法規とも読めるというわけです。契約の条件にかかわらず増減請求権を行使できるということはどういうことか。例えば「10パーセントずつ増額です」というように契約の条件があったとしても、地価が下がったり、公租公課が下がったりすれば減額請求できるというふうにも読めるわけですね。

 裁判所はどう扱っているかというと、借地借家法32条に強行法規的な意味があることを念頭に置いて、賃料自動改定特約の効力を判断することにしています。具体的にどういうことかと、少し誤解を恐れずに一面的な言い方をしますと、借地借家法32条で、例えば、公租公課が下がったとか、地価が下がったとか、そういうことを想定して今の適正賃料を計算する。適正賃料の相場の中に、自動改定特約で決まった金額が入っていればこの自動改定特約は有効。要するに、自動改定特約で計算したものが相場と掛け離れている場合には、これは無効であるとするわけです。

 つまり、鑑定をして今の適正相場の大体動きを決めて、この相場を掛け離れるようなもの、例えば、3年ごとに80パーセントの増額なんてやったら絶対にずれますから、こういうものは無効である。3年ごとに10パーセントというのが大体適正相場の幅の中に入るという場合には、この自動改定特約は有効である。こういうかたちで有効・無効を判断するという枠組みを採っているわけです。極めて一面的な言い方ですが、内容を理解していただくのであればそういうかたちになるだろうと思います。ですから、そういうふうにご理解ください。

 この増減額請求権なのですが、ご承知の通り定期借家権にした場合、定期借家権は賃料改定に係る特約が存する場合には、借地借家法32条を適用しないというふうになっています。つまり、定期借家の契約だと賃料改定に関する特約があったら、特約に従うとなっているわけです。ですから、例えば賃料改定に関する特約というのは、3年ごとに10パーセント増額するという特約は賃料改定に関する特約ですから、こういう特約をすると借地借家法32条を適用しないことができるわけです。

 例えば、定期借家権で契約をする。今の時代ですから増額するというのはあまり考えにくいので、例えば、5年間で定期借家契約をした。賃料は5年間一切増減変更をしないものとし、借地借家法32条は適用しないと契約書に書くと、実際にこれは減額できないというかたちになります。

 ですから、少し公租公課が下がったとか、地価が下がったといっても増減額請求をしても特約があるからという理由で排斥をされることもあります。鑑定した結果どうだこうだではなくて、特約に従って排斥できることになります。賃料増減額請求権が定期借家権に排除されているというのが、いわゆる不動産の証券化に定期借家権が有用であると言われている理由です。

 ビルを証券化するとか、そのために外資系がビルを購入するということがよく行われています。彼らがやるのは、昔のように、例えば不動産の価格を「この土地が坪当たりいくら」というかたちで評価をやるわけではありません。今はいわゆる積算方式で不動産価格を出していません。ビルの売却ですが、ほとんどがレントロールを出させて賃料を見る。この賃料でどれぐらいの収益があるかという収益還元でビル価格を決めて売買交渉をやっているわけです。

 賃料がいくらかということと同時に最近外資系のほうも日本の借地借家法の勉強がだいぶ進んできていまして、この賃料は外資系がビルを買った場合に、賃料の減額請求を将来起すのか起さないのかということを必ず聞かれます。

 テクニカルデューデリを頼まれたときに、本来的に言うとレントロールを出してやっていればいいはずなのですが、「減額請求をするのかしないのか答えてくれ」というかたちで私どもに依頼がきます。これがくるものですから、前提としてこれをやらざるを得ないということがあります。

 今、外資系なんかが気にしているのは、日本のオーナーがこれを持ち続けている間はこの賃料を維持し続けるだろうけれども、オーナーが変わったらその段階で減額請求が来るのではないか。減額請求をやるのかやらないのか、減額請求をされた場合、もし訴訟になったら減額幅はどれぐらいになるのかを見積もってくれという依頼がきます。これによって実際上は賃料が決まる。

 もう少し言うと、実は、賃料は何で決まっているかというと、テナントの質で決まっていると思います。私もビルの売却をやってみて初めて分かったのですが、われわれは一部上場企業ですからこれは大丈夫だと思って喜んで貸しているのですが、外資系から見ていると一部上場企業でも評価が随分違うのが分かりました。

 私なんかが一部上場であり優良会社だと思っていたら、「倒産の危険が何パーセントあるので、利回りの関係の中で価格をこれだけ引かせてくれ」と言われてびっくりしたことがあります。いまやそういう時代なのだろうと思いますが、賃料がいくらか、減額請求がくるか、賃料が滞りなく入るかという辺りがビルを査定していくときに、今大きな基準になっています。

 悪いほうの例はあまりお名前も申し上げられませんが、逆にこのテナントは評価がすごく高いのだと思って驚いたのは、いいほうだから言ってもいいと思うのですが、NTTでした。NTTが入っていると無条件にビルが高いというのは「なるほど」と思ったのですが、要は賃料に関するリスクでどれぐらいの収益が上がるか、収益の確実性でビルを決めていくわけです。

 そうなってきた場合に、賃料の減額請求が通るかどうかというのは一つの問題になってくるわけです。そうなってくると、定期借家権でこの賃料は増減変更しないと定期借家契約書に入っていると、増減変更請求権が働かないものですから、あとはテナントの信用で倒産リスクさえなければ収益が完全に確定するかたちになります。例えば、ネットで何パーセントにするかということでビルの売却代金を決めるという実務になってくるわけです。これはさておいて、そういうかたちで賃料増減額請求が働いているということです。

 

 

<参考資料・引用>

ビル経営管理士講座