アンケート調査に至る当庁の問題意識(P3)

今般、スルガ銀行においては、シェアハウス向け融資およびその他投資用不動産向け融資について、以下のような問題が確認された。

・不動産関連業者が、賃料・入居率を偽装し不動産価格の割増しを行う中、当行の投資用不動産向け融資を扱う相当数の営業職員が、不動産関連業者によるこれらの不適切な行為を明確に認識、もしくは少なくとも相当の疑いを持ちながら業務を行い、中には、当行営業職員が、不動産関連業者に対して不適切な行為を能動的に働きかけて改ざんを促す事例や、自ら改ざんを行った事例も認められた。

・ 不動産関連業者が、当行の融資審査を通すために、顧客の財産や収入を示す資料の改ざん、売買契約書の二重作成等を行う中、当行の投資用不動産向け融資を扱う相当数の営業職員が、不動産関連業者によるこれらの不適切な行為を明確に認識、もしくは少なくとも相当の疑いを持ちながら業務を行っていた。

これら問題を受けて、当庁は平成 30 年 10 月に同行に対し一部業務停止を含む業務改善命令を発出したところである。

また、スルガ銀行で見られたような金融機関の関与や黙認はなくとも、不動産関連業者等による不適切な行為について、複数の金融機関が融資審査で察知することができず融資を実行したという事例が、各金融機関における自己点検や当庁のモニタリングの中で確認された。これら業者が行う不適切な行為の類型としては、主に以下のものが挙げられる。

・不動産関連業者が、物件の評価額の基礎となる賃料の実績を水増しするなどして、物件の売買価格を吊り上げること。

・不動産関連業者が顧客と同意した売買価格よりも高い価格の売買契約書を金融機関に提出することにより、自己資金を有しない顧客に対して物件取得に要する資金全額の融資を引き出すこと。

・ 投資目的で物件を取得するにもかかわらず、不動産関連業者が自己居住を偽装して相対的に低金利である住宅ローンを利用させるなど、物件の利用目的を隠ぺいすること。

・不動産関連業者が顧客の預金通帳や源泉徴収票等の改ざんを行い、顧客の財産・収入に係るエビデンスを偽装すること。

・ 顧客が複数の物件を取得する際、物件ごとに資産管理会社を設立し、それぞれの会社が他の会社の存在を秘匿したうえでそれぞれ異なる金融機関から借入を行うこと。

・不動産関連業者が一時的に顧客の預金口座に入金したり、賃料を顧客に前払いすることにより、物件の取得に必要とされる自己資金を偽装すること。

こうした不適切な行為に金融機関が関与(または黙認)することは言うまでもなく重大な問題であるが、金融機関が関与・関知しない場合であっても、不動産関連業者による不適切な行為を看過し融資を実行した場合には、顧客がその財産・知識等に照らして過大な債務を負うという顧客保護上の問題や、顧客が返済不能となり金融機関に損失が発生するという信用リスク管理上の問題が生じうる。

特に、投資用不動産向け融資のうち、一棟建(土地・建物)向け融資の一部には以下のような特徴や課題があると考えられることから、今般、金融機関の融資規模や管理態勢を横断的に把握すべく、アンケート調査を実施したところである。

投資用不動産向け融資の構図

・富裕層の顧客が相続税対策等を目的として、自身が所有する土地に建物を建設するための資金を融資するといった従来のアパートローンとは異なり、給与所得者等の顧客が資産形成目的で土地・建物を一体として取得するというレバレッジの高い投資に対して資金を融資するものであり、顧客・金融機関双方にとって相対的にリスクが高い。

一方で、返済期間が長期にわたり、一般的に融資期間の初期にリスクが顕在化することが少ないと考えられている中で、中長期視点からのリスクの検討が不十分なまま高額かつ高利回りの担保付融資を積み上げるといった、融資規律の緩みが生じていないか。

・ 事業意欲のある顧客が金融機関に直接借入の申込みを行うのではなく、不動産関連業者が顧客に投資用不動産の取得を勧誘し、取得資金を融資によって得させるために金融機関に対して当該顧客の紹介を行う(以下、こうした不動産関連業者「紹介業者」という)。

この際、金融機関は顧客の資金需要の掘り起こしや顧客からの審査関係資料の受領等の事務を紹介業者(またはこうした融資の保証を行う保証会社)に依存することで、金融機関と顧客とのリレーションが希薄となり、事業・収支計画、顧客のリスク理解度や財産・収入の状況等を把握しづらくなるといった事態が生じていないか。

・金融機関が過度に業績を追求し紹介業者への収益面での依存を高めることで、紹介業者が力関係上優位となり、金融機関が紹介業者に不利となるような融資審査・顧客説明を十分に行えなくなるほか、紹介業者の業務に係る適切性を検証することが難しくなるといった事態が生じていないか。

融資審査における財産・収入の確認状況の分布(例)

顧客が給与所得の場合、給与明細等の給与所得を示す書類の原本確認をしているか

銀行    25%
信金・信組 31%

預金通帳等・財産状況を示す書類などの原本確認をしているか

銀行    18%
信金・信組 22%

 

(出典)
金融庁
投資用不動産向け融資に関するアンケート調査結果 平成 31 年 3 月
https://www.fsa.go.jp/news/30/20190328.PDF