借地借家法の成立ちと、消費者契約法の類推適用は可能か

契約とは、法律的な権利義務を発生させる法律行為の一つで、法律的な効果を発生させる行為の一類型です。2人以上の当事者が「お互いにこういう内容で権利義務を発生させます」と合意するときに契約が成立します。

賃貸住居に関する契約が適用される法律は二つしかありません。

各当事者が、相互に対価的意義を有する債務(使用収益させる債務と賃料支払債務)を負担する契約で、有償・双務契約と言われます。

部屋を貸すが家賃を支払って欲しい、つまり賃貸借となり賃貸借契約を結びます。

これは、借地借家法の適用になります。

もう一つは、対価と支払わないで物を使用することができる使用賃借は、無償・片務契約といわれます。つまり、賃貸借と使用貸借の本質的差異は対価すなわち賃料を支払う約定があるかないかという点にあります。

このような性質から建物の使用貸借には、借地借家法の適用がなく、民法の規定に基づくことになります。

  • 賃料を支払って住む・・・・借地借家法
  • 賃料を支払わなくて住む‥・民法

賃貸借契約の内容を規制するものとして、さきほど述べた「借地借家法」があります。これを借地・借家に関する法律の沿岸から見て行きます。

他人が所有する土地に建物を建てるためその土地を借りる場合(借地)や他人が所有する建物を借りる場合(借家)、一般に、貸す者(賃貸人)と借りる者(賃借人)との間で「賃貸借」という契約が締結されます。

この賃貸借契約を一般的に規制する法律が明治31年に施行された民法です。

民法の起草者は、賃貸借を「契約」として、賃貸借契約によって生ずる賃借権を「債権」として構成しました。しかし、これによって二つの問題が立法直後から表面化しました。

一つは、「契約自由の原則」との関係です。民法の原則である契約自由の原則によれば、当事者は賃貸借契約の内容(条件)を自由に決めることができるはずです。しかし、この原則を不動産賃貸借にそのまま適用すると、経済的に優位な立場にある賃貸人が自己に有利な条件で契約を締結することを賃借人に強要し、経済的に不利な立場にある賃借人がそれをのまざるをえないような状態でなされた契約でも有効なものとなってしまいます。

例えば、「賃貸人が明渡しを請求した時は、借家人は、即時に建物を明渡さなければならない」という条項さえも有効なので、借家人は賃貸人からの明渡し請求に怯えながら借家で暮らさなければなりません。

このように、不動産賃貸借における契約自由の原則は賃貸人だけの自由であり、賃借人には契約の自由はないといっても過言ではありません。

そこで賃貸人と賃借人との経済的関係の差を埋めるために、国家が賃貸借契約の内容に強制的に介入する必要がでてきています。

そこで、民法上こうした劣悪な地位にある不動産賃借人を保護する目的でいくつかの特別法が制定されました。

まず、明治42年に「建物保護法」が制定され、ついで大正10年に「借地法」「借家法」が制定され、その後、昭和16年の改正をはじめとして、たびたび改正されましたが、平成3年に形式も内容も抜本的に改正された「借地借家法」が制定されました。

なお、民法と借地借家法は一般法と特別法との関係に立っているので、「特別法は一般法に優先する」との原則により、不動産賃貸借については、まず特別法である借地借家法が優先的に適用され、借地借家法に規定されていない事項についてのみ民法が適用されます。

それと、賃貸借契約の内容を規制するとして、「公序良俗違反」があります。

賃貸借契約にとどまらず、契約一般についてもいえることですが、契約の条項は契約自由の原則に則り基本的には当事者の任意に決めることができます。

しかしながら、内容があまりに非常識であったり不公平であったりする場合は、借地借家法に定めがなくても無効になる場合があります。公の秩序、善良な風俗を略して「公序良俗」といいますが、「公序良俗違反」で無効になる場合です。

もう一つ「契約自由の原則」を制限するものに「例文解釈」というものがあります。

不動産の賃貸借契約や示談書などに含まれている定形型文言や約款の解釈で文言通りに適用すると不当な結果となる場合に、その不当性を回避するために、その文言を「単なる例文である」として、その有効性を否定する契約解釈の手法です。

信義則によって基礎づけされ、形の上では、合意の存在の否定ですが、実質的には、裁判官による契約内容の改定を意味しています。一方的に相手方に不利となる契約内容に対する隠れた司法的内容規制としての機能を発揮するものです。

新たに「消費者契約法」が2001年4月1日以降、消費者と事業者との間に締結される契約に適用されることになりました。

消費者と事業者との間では、知識と経験の差が大きく、契約当事者といっても対等とはいえません。従って、契約に当たって、ある程度事業者に不利に、消費者に有利に解釈して初めてバランスがとれるというのが法の基本的発想です。

この発想から、法の目的は、消費者と事業者の問の全ての契約を対象にして契約の取消権や不当な条項の無効を主張する権利を消費者に認め、消費者契約から生じるトラブルや被害を抑制することがあります。

    1. 事業者の情報提供・説明の努力義務
    2. 消費者の取消権
      1. 重要事項について、事実と異なることを告げること。
        消費者契約に係わる、物品、権利、役務、その他の契約の目的となるもの質、用途、その他の内容、及び対価その他の取引条件について、契約を締結するか否かの判断に、通常影響を及ぼすものをいう、・・ と定めています。
      2. 変動が不確実な事項についての断片的判断の提供
      3. 不利益事実の不告知
      4. 困惑させられた場合
        事業者の行為によって困惑させられ、それによって消費者契約の申込みまた承諾の意思表示をしたときは、消費者はその意思表示を取消すことができる、と定めています(第4条第3項)。「困惑」とは、消費者が、どうしたらよいか分らなくなり、精神的に自由な判断ができない状態をいいます。消費者が困惑して、自由な意思決定ができない状態で消費者契約を締結した場合、民法の強迫が成立しない場合でも取消しを認めることにしたのです。
    3. 消費者に不利な条項の無効
      1. 事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効
      2. 消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項の無効
      3. 消費者の利益を一方的に害する条項の無効

 

不動産サブリースに関する契約を「消費者契約」(消費者契約法2条3項)といえるかが問題であります。オーナーは、反復継続的に賃料収入という一定の利益を得るために契約の当事者となるから、個人であっても「事業としてまたは事業のために契約の当事者となる場合」とされるおそれがあります。

しかし、「事業」は目的の営利・非営利を問うものではありません。日本弁護士連合会消費者問題対策委員会編「コンメンタール消費者契約法(第2版)」(商事法務、2010年)は、事業について、「それを行っているものが当該契約について情報の質、量および交渉力に相手方当事者より高いレベルにあると判断される場合であり、一応の定義をしたとしても各契約の実態に合わせて柔軟に解釈すべきである」としています。

マルチ商法や内職商法などでも、反復継続的に一定の利益を得るために契約がなされるものでありますが、これらの取引契約を消費者契約でないとすることは明らかに不当であります。

賃貸人(オーナー)が、何棟もの賃貸物件をもって賃貸業を営んでいるような場合であればともかく、初めて賃貸物件の建築契約を行うなどの場合については、賃貸人(オーナー)の属性や、勧誘の状況にもよっては、消費者契約法の適用が十分検討できるものと思われます。

 

大谷昭二(NPO法人日本住宅性能検査協会理事長)