【事件の経緯】

三井不動産レジデンシャル株式会社が分譲した横浜市所在のマンション(以下、「本件マンション」といいます。)について、当社は2017年11月28日付で、施工会社である三井住友建設株式会社並びに杭施工を行った株式会社日立ハイテクおよび旭化成建材株式会社に対し、総額約505億円の損害賠償を請求する訴訟(以下、「本件訴訟」といいます。)を東京地方裁判所に提起。

本件訴訟については、2025年3月13日付で民事調停法第17条に基づく調停に代わる決定(以下、「本件決定」といいます。)がなされ、被告ら3社が合計112億円を当社に支払うこと等が示された。

本件は、被告らによる大規模かつ広範なデータ偽装により、その安全性に対する重大な疑義が生じ、それに加えて、実際に杭に支持層未到達、一部の建物の沈下といった客観的瑕疵が存在することも判明した事案。

本件決定においては、被告ら3社によるデータ偽装の法的責任を認めるものとは言えず、国民生活において極めて重要な、すまいの安全性に対する信頼には、法的保護が与えられるべきものと考え、これに異議を申し立てた。引き続き被告らの不法行為責任、瑕疵担保責任等に関する主張を適切に展開していく。

なお、本件マンションについては、2021年2月に建替え建築工事を完了し、その後、お客様も再入居している。

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「すまいの安全」に対する社会的責任(CSR)を全うするため、調停決定に異議申し立て —横浜市所在マンション訴訟の件—

*この事案は、企業の社会的責任(CSR)における最も重要な要素のいくつかに直接関わるものです。

関連性は、主に「問題を起こした側(施工会社ら)」と「問題に対応する側(三井不動産レジデンシャル)」の2つの側面から見ることができます。

1. 施工会社ら(被告)のCSR違反

被告ら(三井住友建設、日立ハイテク、旭化成建材)が行ったとされる「大規模かつ広範なデータ偽装」は、CSRの根幹を揺るがす重大な違反行為です。

① 法令遵守(コンプライアンス)と倫理の欠如: 安全性の根拠となるデータを偽装することは、法律や規制(建築基準法など)を無視する行為であり、企業倫理の著しい欠如を示しています。

② 消費者(住民)の安全・安心の侵害: 「杭の支持層未到達」「建物の沈下」という瑕疵(欠陥)は、そこに住む人々の生命と財産を直接危険にさらす行為です。安全な製品(すまい)を提供することは、製造・建設業における最も基本的な社会的責任です。

③ 社会的信頼の毀損: この一件は、マンション住民だけでなく、建設業界全体、ひいては「日本の建築物は安全である」という社会全体の信頼を大きく損なうものです。

2. 三井不動産レジデンシャル(当社)のCSR活動

一方で、この文章(プレスリリース)を発信している三井不動産レジデンシャル(分譲会社)の対応は、CSRを果たそうとする活動そのものです。

① 顧客(住民)に対する責任の遂行: 分譲会社(売主)として、最終的な責任を負う立場にあります。施工会社の問題であったとしても、まず顧客の安全と生活を守ることを最優先し、実際に「建替え建築工事を完了」させ、「お客様も再入居されています」 という対応(結果)を示しています。これは、製品(すまい)に対する責任を全うするCSR活動です。

② 説明責任(アカウンタビリティ)と透明性: このように訴訟の経過や会社のスタンスを公表すること自体が、顧客、株主、社会全体に対する説明責任(アカウンタビリティ)を果たす行為です。

③ 再発防止と業界の健全化への貢献(本件の核心): 最も注目すべき点は、「調停(112億円の支払い)に異議を申し立てた」 ことです。

もし三井不動産レジデンシャルが自社の金銭的損失の回収だけを考えていれば、112億円の支払いで和解する選択肢もあり得ました。

しかし、あえて異議を申し立てた理由として「被告ら3社によるデータ偽装の法的責任を認めるものとは言えず」「すまいの安全性に対する信頼には、法的保護が与えられるべき」と主張しています。

これは、「お金(賠償金)の問題ではなく、データ偽装という不正行為そのものの責任を法的に確定させ、業界の悪しき慣行を正し、社会的な信頼を回復させるべきだ」という、より高いレベルでの社会的責任を果たそうとする姿勢の表れと言えます。

結論

この事案は、「施工会社による重大なCSR違反(安全性の軽視・偽装)」と、それに対して「分譲会社が顧客と社会に対して責任を果たそうとするCSR活動(建替え対応・不正の責任追及)」という、CSRの両面が非常にはっきりと表れたケーススタディと言えます。